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大分地方裁判所 昭和46年(ワ)362号 判決 1976年10月25日

原告

有限会社松岡石材

右代表者

岡内三夫

右訴訟代理人

安部萬年

被告

ラサ工業株式会社

右代表者

山口良定

右訴訟代理人

安田幹太

外一名

主文

一  被告は原告に対し金一八六〇万円およびこれに対する昭和四六年八月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一被告会社は鉱山用等各種機械器具の製造販売を業とする会社であるところ、麻生産業が大分県大分市大字松岡所在の土地約三町歩において、同所に埋蔵されている原土(石)を砕石選別して砂利を生産し、これを販売する事業を行うについて、砂利生産のために用いる砂利採取プラント(本件プラント)を製作し(完成は昭和四五年三月)、これを大分県における特約販売店である薬秀商事に売渡し、同社は昭和四五年一月一九日麻生産業に本件プラントを売却したこと、および、原告会社が麻生産業の倒産後の昭和四六年一月一九日薬秀商事から本件プラントを買受ける契約を結んだこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1(一)  麻生産業は、右大分市大字松岡の土地で、従来から小規模に砂利(いわゆる岡砂利)採取事業を営んでいたが、事業を拡張するため、昭和四四年秋頃から、従来のものに代る新鋭の砂利採取プラントの購入を計画していたところ、我国で有数のこの種のプラントのメーカーである被告会社の大分県における特約販売店である薬秀商事がこの情報を察知し、麻生産業に対して、被告会社の製造する砂利採取プラントの購入を勧誘し、種々交渉の末、商談がまとまるに至つた。

この砂利採取プラントというのは、前記場所に存在する堆積砂利層の原土(石)を掘り起し、これから、粘土分等の泥土分を除去して砂利部分を適宜選別し、予定されたサイズに破砕して骨材としての砂利を生産する機械であつて予定される砂利生産能力と選別破砕される原土(石)に適合するように、各種用意されている選別機械、破砕機械、運搬機械などの個別機器から適当なものを選定し、これを適宜配置組合わせて構成される総合プラントである。

(二)  麻生産業が購入する砂利採取プラントの内容については薬秀商事の担当者をなかにはさんで、麻生産業を実質的に経営していた麻生準治と被告会社の技術担当者との間で折衝された。新プラントの砂利生産能力は、一時間あたり五〇立方メートル(八〇トン)、一日八時間、月二五日操業するとして月産一万立方メートルと予定され、個別機器をいかに配置組合せるかの問題については(これを砂利採取プラントの設計の問題といつて差支えないであろう。)、たまたま近くの場所で稼働していた被告会社製の岡砂利採受プラントを参考として、それとほぼ同様の形式(後述する泥土分除去方法もふくめて)のプラントとすることとして、被告会社の担当者が前記各種個別機器の選定を行つて配置を検討し、砂利サイズの変更のため、一度二、三の機器の配置の変更をした後、昭和四四年一二月二三日頃最終の個別機器の配置図(プラントとしての設計図)を完成した。右配置図によると、新プラントは、原告ホツパー、振動フイーダー、シングルトツグルクラツシヤー、インパクトクラツシヤーを各一、ローヘツドスクリーンを二、クラツシフアイヤーを二、ベルトコンベアを九という各個別機器をもつて構成されるものであり、原土(石)に含まれる砂利部分以外の粘土分等を除去する方式としては、被告会社の技術員が麻生の話を聴くとともに現地を見分し、自ら採取した原土(石)を持ち帰つて成分のテストをし、泥土分が全体の二〇パーセント前後であるとの結果をもとに、多量の水を原土(石)に噴射することにより、粘土分等の不純物はほぼ完全に除去できるとの予測をたて、これに基づき前記ローヘツドスクリーン上の破砕された原土(石)に対し、圧力のかかつた水をノズルから噴射する方式(使用される水の量は、生産される砂利の二倍ぐらいが必要であると見込まれ、配管は生産量の三倍まで可能なように設計された。)が採用された。

そして、右配置図(設計図)が完成した頃、これに基づく砂利採取プラント(本件プラント)を目的物とした売買契約が製作者である被告会社と薬秀商事との間で締結され、更に昭和四五年一月一九日薬秀商事と麻生産業との間で本件プラントの売買契約が合意され、まもなく被告会社の手によつて前記場所に本件プラントの設置工事が施工され、同年三月頃に完成し、所定の試運転が行われて、その頃薬秀商事から麻生産業に対し本件プラントの引渡が完了した。

2(一)  麻生産業は本件プラント引渡と同時に操業を開始した(なお、引渡後に、製品としての砂利サイズを小さくするため直径四〇ミリメートル以上の大きな砂利を再破砕するための改良工事と泥土分による振動フイーダーの目づまりを防ぐ趣旨で、この振動フイーダーのグリズリ目開きを拡げる工事が麻生産業の依頼により被告会社の手で行われた。)。

本件プラントはほぼ予定どおり、一時間あたり五〇立方メートル以上の砂利を生産する能力のあることを示したが、操業開始当初から生産される砂利の品質自体に問題があつた(試運転の時には操業時間も短く、生産量も少量であつたため、それほど重大視されなかつた。)。すなわち、本件プラントによつて生産される砂利には薄い膜状の粘土分が付着しており、このため砂利全体が黄色味のかかつた汚染された状態であつて、砂利業者が定めている品質に関する自主規格に合致しなかつたため、麻生産業の従来からの取引先三社はそろつて、品質劣悪を理由として、この買受を拒否する態度に出た。麻生産業は、砂利に対する洗滌が十分でないため(但し、当時においても、当初予定された水量は使用されていたし、水の圧力も予定どおりであつた。)右のような事態を生じたのであろうと考え、次に述べる本件プラントの改善を考慮する一方で、それがなされるまでの間、生産された砂利を大野川まで運搬し、川の水で再洗滌し、粒土分を洗い流すようにしたうえで出荷したが、右の方法では若干は改善されたものの、粘土分を完全に除去することができず、依然前記した品質上の問題点が解決されなかつた。このため、麻生産業は従来からの取引先との関係を改善することができず、止むを得ず、品質管理につき比較的ルーズな地方の業者に安価で引取つてもらうことにした。そして、品質がこのように悪く、大野川で再洗滌するという余分の手間をかけなければならないことと、買手の引受能力の問題もあつたため、コストの上昇のみならず、本件プラントの稼働も本来の能力の七〇パーセント程度にとどめざるを得なかつた。

(二)  前記のとおり、麻生産業は、生産される砂利の品質に問題があるのは、本件プラントの原土(石)洗滌能力の不足に起因すると考え、使用水量の増加をはかるため、同年四、五月頃、従来の装置に加えて、新たに近くの場所をボウリングして二本の井戸を掘り、ポンプを増設して水を汲み上げ、これを前記ローヘツドスクリーン上に導く装置を施し、また貯水槽を設置して、操業しない夜間のうちに十分の水を貯えておくこととし、更にこのように増量された水を有効に繰り返し用いるべく、循環装置を施したうえ、この水を清浄に保つため、沈澱池とともに汚水浄化装置を設けた(このような改善策は、同年八年はじめに調査にあたつた被告会社の技術担当者も支持するところであつたことは後述のとおりである。)。

麻生産業は、このように増強された洗滌機構をもつて砂利生産を継続したが、砂利の品質は顕著には改善されず、依然として粘土膜のため黄色味を帯びた汚ないものであつて、自主規格に達せず、得意先との関係改善を望むべくもなく、前と同様、地方の業者に安価に引取つてもらうことを続けるほかなかつた。そして、このように本件プラントの性能がはかばかしくない結果として、当初の予定した三分の一も業績をあげることができず、このため、麻生産業は本件プラントの代金支払のために薬秀商事に交付していた約束手形を期日に決済することができないようになり、同年七月末ごろ倒産するに至つた。

3(一)  本件プラントの売主である薬秀商事はこのままの状態では代金の回収がほとんどできない結果となることから、事業の建て直しを希望し、被告会社もこれを支持したため、新たに麻生産業の第二会社を設立してこれに麻生産業の事業を継続させ、その間に本件プラントの改良を行つて業績をあげることをはかることになり、麻生産業、薬秀商事、被告会社の三者の合意に基づき、昭和四五年八月四日原告会社が設立された(原告会社を実質的に経営するのは、麻生産業と同様、麻生準治である。)。そして、原告会社は同日麻生産業の事業を引継ぐべく、本件プラントによる操業を開始した(なお、薬秀商事と麻生産業との間の本件プラント売買契約は合意解除され、新たに薬秀商事と原告会社の間でこの売買契約が結ばれた。もつとも正式に契約書が作成されて、代金の弁済方法が定められ、その支払のために原告会社振出の約束手形が薬秀商事に差入れられたのは昭和四六年一年一六日のことである。)。

(二)  原告会社が操業を再開した直後の昭和四五年八月の始め被告会社の技術担当者が本件プラントの調査を行つた。そして、その際の能力検査においては、本件プラントが当初予定された一時間あたり五〇立方メートルの砂利を生産する能力を維持していることは確認されたが、砂利の品質に依然問題のあることも同時に認識されたところであつた。被告会社の技術担当者も、その原因は原土(石)の粘土分の除去が十分にできないこと、すなわち洗滌不十分にあることを指摘したうえ、麻生産業の施した前記改良工事を基本的に支持し、洗滌は真水によることが理想であり、その不足を補うための汚水匹環を行うについては、汚水を沈澱池にて十分に沈澱させたうえで用いることが望ましい旨アドバイスした。

(三)  原告会社は、原土(石)に含まれる粘土分等の量が従来に比較して徐々に増加してきていることと、洗滌のための水量の増加については既に可能なかぎりの改良を施してきていることから、従来本件プラントには、前記ローヘツドスクリーン上で圧力のかかつた水を噴射する過程に至るまで汚土分を事前に取り除く工程はなく、そのためこの泥土を含む細粒物が各機器類の機能を阻害し、本件プラントの砂利生産能力も徐々に低下の傾向を辿つてきていたのを改良しようと、同年一〇月頃、原石ビンを移設し、即下に振動節を増設して、工程の最初の段階でできるだけ泥土分を取り除くようにし、また、原石の吐出を促進する目的でホツパ側板にユーラスモーターの取付を行つた(この工事は麻生が提案したものであるが、被告会社も砂利の品質向上のためには良い結果をもたらすであろうとの考えのもとにこれを支持し、本件プラントと同様薬秀商事を中間に介在させたうえ、金四〇〇万円で受注し、施工した。)。

(四)  このように本件プラントに対する改良工事を重ねたが、これも若干の効果をもたらしたにとどまり、粘土分の膜が付着して製品が黄色く、品質が劣悪であるという根本の状況自体は改善されず、また、本件プラントの生産能力自体の低下もやまず、原告会社が事業を引継いでからも、本件プラントが本来の性能を有していればあげられたであろう売上の半分以下しか業績があがらないという不振の状態が続き、利益をあげることができないのは勿論、営業を続ければ続けるほどかえつて欠損の出るありさまであつた。それでも原告会社は、薬秀商事から資金援助を受けるなどして、何とか操業を継続していたが、ついに薬秀商事に対する代金支払のための約束手形の決済もできないほどとなり、昭和四六年五月頃倒産し、操業を停止した。

(五)  原告会社は、本件プラントに関する問題について、薬秀商事や被告会社との間で交渉を続けていたが、これを打切り、昭和四六年七月三〇日本訴訟を当庁に提起し、これに付随して同年一〇月三〇日本件プラントの性能等について鑑定を求める旨の証拠保全の申立を行ない、同年一一月二四日右申立を認める決定があつた。そして、この決定に基づき、鑑定人小此木良夫が昭和四四年一月二二日、本件プラントについての操業実験を行つたが、それによると、当日の本件プラントの砂利生産能力は一時間あたり22.42トン(約一四立方メートル)であり、稼働中の本件プラントには原石の吐出不良、振動フイーダの原石選別不良、原石ホツパのシユート部および振動フイーダ即下ホツパのシユート部の詰まり、インパクトブレーカー内面に付着する粘土の育生が大きく、ローターの回転を妨げるために起るモーターに対する過負荷(焼損)、洗滌および選別不良等の不備が認められ、これは、原土(石)の性質として、粘土質等の泥土分が相当多く、その粘着力も高いことに由来するものと考えられた。

以上のとおり認めることができ、<る。>

三以上の事実に基づき、責任原因について検討する。

1  原告会社は、麻生産業と被告会社との間に本件プラントの設計契約が存在したことを前提として、被告会社にその設計を誤つた善管注意義務違反があつたと主張する。

しかしながら、事実関係は前示認定のとおりであつて、本件プラントは被告会社から薬秀商事に、薬秀商事から麻生産業にと順次売買されたものであり、被告会社は薬秀商事に本件プラントを売却する前提として、将来これを使用する麻生産業の希望をききつつ本件プラントの設計にあたつたのにすぎないものというべきであるから、右売買契約と別個独立に麻生産業と被告会社の間に設計契約の存在を認めることはできない。

したがつて、原告会社の右主張は、前提において失当というべきである。

2  次に、原告会社は、薬秀商事の債権者として薬秀商事の被告会社に対する権利(瑕疵担保責任の追求)を代位行使すると主張する。

しかしながら、双方的商行為であることが明らかな薬秀商事と被告会社間の本件売買において、薬秀商事としては、商法五二六条所定の検査、通知の義務を怠つており、瑕疵担保責任を追求することができるかについても疑問があるところであるのみならず、仮に、これを怠らなかつたとしても、原告会社の主張自体からして、薬秀商事が本件プラントの瑕疵の存在を知つたのは昭和四六年六月であるところ、原告会社が薬秀商事に代位して被告会社に対し右売買契約を解除し、損害賠償等を請求する意思表示をしたのは、それから二年以上経た昭和四八年九月一八日であるというのであるから、右契約解除等の意思表示は民法五七〇条、五六六条所定の一年の期間を経過した後になされたものということになり、原告会社の右主張は、それ自体理由のないものといわなければならない(のみならず、本件全証拠に照らしても、薬秀商事が原告会社に対して、原告会社の主張するような損害賠償を履行することができないほどの無資力な状態にあると認めることはできない。)

3  本件プラント製作者としての注意義務違反について

(一) 前示認定した事実を要約すると、本件プラントは被告会社の技術担当者が、その個別機器の配置を計画設計したものであり、砂利生産に伴う粘土分等の泥土除去対策は、右担当者が現地に赴き、自ら採取した原土(石)の成分を分析調査したうえ、ローヘツドスクリーン上に高圧の水を噴射させることで十分であると認めて、そのように設備されたものであるところ、本件プラントから生産される砂利は、数次の改良を加えたのにもかかわらず、終始、粘土膜の除去が完全に行われず、このため全体として黄色味を帯びた品質劣悪なもので、自主規格に達することができず、このため、麻生産業及び原告会社は当初予定された販売先を失い、これに代る販売先も十分に得られず、終始予定された生産量をあげることができなかつたのみならず、操業により欠損を蒙つたものである(本件プラントは一時間あたり五〇立方メートル、一か月につき一万立方メートルの砂利生産を目的として製作されたものであつたが、当初は品質は別として、右生産能力があつたものの、粘土膜除去のための余分の労力を要したため稼働時間が制限され、また後に至ると、妙土分の増加のため、生産能力自も低下した。)。

したがつて、被告会社の主張するように本件プラントは麻生産業が自ら設計創案したものであり、原土(石)についての基礎調査を行つたのもまた麻生産業であつて、被告会社は右基礎調査の結果に基づき各機器の配置についての意見を述べたにすぎないということはとうてい認めることができない。前示したところからすれば、麻生準治が被告会社の技術担当者に対して、自らの経験に照らして若干の意見を述べたとしても、それは注文主として一般的に希望することの域を出るものということはできない。

なお、泥土除去対策として前示のとおりの方式が採用されることになつたについては、前記大分市大字松岡の付近で他人が操業中の同方式のプラントに準ずるものにすることについて、麻生準治も承諾を与えていたものと認められるけれども、それは、被告会社の技術担当者が自ら行つた調査に基づいて、右の程度の方式で大丈夫であるとの認識のもとに、右の近所のプラントを案内したことに由来すると認められ、右方式の採用について麻生の側でこれを固執したとかの事実は全く窺えないので、右の承諾をもつて麻生の指示があつたということはできない。その他、本件プラントの設計について、麻生が自らの知識に基づき、何らかの意見に固執し、それが設計に取り入れられたとかの事情は全く認められない。

そして、本件プラントには前示のとおりの改良が加えられているけれども、<証拠>を総合すると、これらの改良は、本件プラントの除泥土機能を当初の計画時以下に何ら低下させるものでなく、かえつて改善させるものであつたと認められる(なお、被告会社が主張するような、本件プラント操業について、原土配分に関する麻生産業ないし原告会社の作業担当者の過誤は証拠上窺えない。)。

(二) 前示したところからすれば、本件プラントに採用された泥土除去のための方式は、本件の原土(石)に対するものとしては極めて不十分と評価されることは明らかである。

ところで、<証拠>を総合すると、砂利採取プラント(とくに岡砂利採取を目的とするものについては)の設計製作にあたつては、選別破砕すべき原土(石)の性状、特にこれに含まれる粘土質等の泥土分の割合およびその性質の的確な把握が不可欠であつて、メーカーとしては、自ら、または専門家の手を借りるなどして、できるかぎりその調査に努め、原土(石)の性状についての正確な知識を得たうえで、それに適合する個別機器を選定すべきものであるところ、本件において、原土(石)について適切な調査が行われていたとするならば、その原土(石)は泥土分が多く、かつその粘着力が相当大きいことについて知識を得ることは容易であり、右の知識を前提とすれば、このような原土(石)に対する除泥土機構としては本件プラントに採用された前記の程度のものでは不十分であり、これ以上の効果を有する他の装置、例えば、ドラムウオツシヤー、トロンメルウオツシヤー、ロツグウオツシヤー、プール併用のバケツトエレベーターあるいはレオラバーを変形しての傾斜シユートなどの機器を組み込み、泥土分の水に対する溶解作用と機械的な衝撃、攪拌作用をより効果的に利用することなどが設計に取り込まれ得たし、そうすれば本件の原土(石)からも製品として十分な品質を備えた砂利が生産され得たと認められ、これに反する証拠はない。

そうであるとすると、本件プラントの設計製作にあたり、原土(石)の性状について前示の程度の調査も自ら行つただけでは十分な調査ということはできないから、これに基づいて、前示のごとき不十分な除泥土装置で十分の機能を有すると判断した被告会社の技術担当者の行為は違法と評価され、その尽くすべき注意義務を尽くさなかつた過失があるといわざるを得ない。

被告会社は、メーカーに対してそのような詳細な調査義務を要求することは難きを求め過ぎるものであると主張するかも知れないが、原土(石)の性状についての正確な把握が、砂利採取プラントに使用すべき個別機器の選定、配置の適正を保障するものであり、通常これらに関する専門的知識はメーカーの側に独占されている以上、当事者双方で除泥土機構の方式について明確な合意をしたと認められるような場合は別として、一般的には右のように解するのは止むを得ないことと考える。メーカーとしては調査関係は別契約とし、または自らまたは専門家の手による調査に伴う費用を代金に上乗せし、更には一定の代金では調査が十分にできないゆえにプラント下の性能について責任は負わないこととするとか、各種の方法で右の危険を免れることができるのである。

本件において、被告会社の担当者が麻生産業に対し、調査の必要性を説き、専門家を紹介するとかの行為に出たことは証拠上全く認められず、かえつて、自ら原土(石)の成分をテストし、その結果に基づき前記の除泥土機構で十分との態度をとつたことは前示したところから明らかである。このような状況下で、麻生産業として、有数のメーカーである被告会社を信頼することは当然ということができるが、もし、被告会社の側で原土(石)の性状についての特別の調査が必要であることを示唆しておれば、麻生産業が自らの計算でこれを行うことを拒んだであろうことは弁論の全趣旨に照らして、窺うこともできないのである。

以上のとおりであるから、被告会社は、右技術担当者の使用者として、本件プラントの除泥土機構の不完全に帰因する損害を賠償する義務がある。

(三)  ところで、麻生産業は中途で倒産し、原告会社が、麻生産業、薬秀商事、被告会社の了解のもとに、右の事業を引継いだことは既に判示したとおりである。

しかしながら、右の事実があるからといつて、これのみから麻生産業の有した損害賠償請求権を含む一切の地位を原告会社が包括的に承継することについて、右の者の間で合意が存在したこと、または、麻生産業が原告会社に対し、本件プラントに帰因して蒙つた損害についての賠償請求権を債権譲渡したことを推認することはできず(他にこれを認めるに足りる証拠もない。)、他に原告会社が別人格である麻生産業の右の請求権を行使し得る根拠を見出すことができないから、原告会社の本訴請求中、右の部分は、この点において失当というべきである。

四次に、被告会社の主張について判断しておく。

1  被告の主張一、1について

前示したところから明らかなように、本件プラントの設計(特に、除泥土機構)について、麻生産業(麻生準治)が指示を与えたとは認められないから、右主張は失当である。

2  同一、2について

既に説示したとおり、被告会社の責任は債務不履行によるものでなく、不法行為を原因とするものであるから、右主張の採用の余地はない。

3  同二について

被告会社主張のような事実関係があつたとしても、それは被告会社の設計製作した本件プラントの不完全さに由来するものなのであり、また、<証拠>によれば、被告会社は直接の買主である薬秀商事から本件プラントの代金額の支払を既に受けていることが認められるのであるから、被告会社が条理を根拠に原告会社の請求を拒みうるなどとは何ら理由がないというべきである。

右主張も採用することはできない。

五原告会社の蒙つた損害について

原告会社は、麻生産業が操業した期間の分もあわせて、一五か月分の損害として、営業損失として金五七七〇万四八五九円のうち金九〇〇万円、逸失利益として金二一〇〇万円を請求するところ、原告会社固有の損害として、それぞれ、どれほどの請求をするのか明らかでないが、右期間のうち、原告会社自らの操業期間は一〇か月というのであるから、請求額もこれに按分し、前者として金六〇〇万円、後者として金一四〇〇万円を請求するものと推認する。

1  営業損失について

<証拠>によると、原告会社は昭和四五年八月四日から、同四六年七月三一日までの間(但し、操業したのは同年五月までであることは前示のとおりである。)、金四〇七五万五六八七円の売上げをあげ、この売上をあげるために金五八一八万三二一九円の営業費用を要し、このため、金一七四二万七五三二円の営業損失を蒙つたことが認められ、これを左右する証拠はない。

そして、前記認定事実および弁論の全趣旨によると、右営業損失は、専ら除泥土機構に欠陥あるプラントの操業の結果と認められるから、前示したところにより、不法行為に基づく損害賠償として、被告会社が負担すべきものである。

そうすると、被告会社は原告会社に対し、右のうち金六〇〇万円を支払うべき義務がある。

2  逸失利益について

<証拠>によると原告会社は、本件プラントに前記のような欠陥がなく正常に稼働したとすれば、生産される砂利を販売することにより一か月金一四〇万円の収益(純利益)はあげることができたことが認められるかのようである。

しかしながら、右証拠は、その算定の根拠についての説明が十分になされているということができないので、右証拠のみによつては、その内容どおりの純利益をあげえたかどうかについて疑問が残る。

ところで、<証拠>によると、原告会社が昭和四六年一月一九日薬秀商事から麻生産業に代つて本件プラントを買受ける旨の契約書を作成したとき(同時に右トラクタシヨベルも購入した。)、同年二月四日から三〇か月に亘つて割賦金を支払うこととしたが、右割賦金額がかなり長期間に亘り金一四〇万円を越える額に定められていることが認められる。そして、右金額は、当時の状況からすれば、原告会社が毎月あげる利益で無理なく支払える金額を基準として定められたものと推認されるから、前に掲げた甲第九号証とあいまつて、原告会社は本件プラントの正常な操業によつて、毎月金一四〇万円を下らない純利益をあげることができたものと認めるのが相当であり、右の認定に反する証拠は見当らない。

原告会社は自己の操業期間中の逸失利益を求めるのであるが、前示認定したところからすると、操業開始は昭和四五年八月四日であり、操業停止は昭和四六年五月としか判明していないので(但し、弁論の全趣旨により操業の停止は同月四日以降と認められる。)右事実から確実に操業していたといえる期間は九か月間である。したがつて、被告会社は原告会社に対し一か月金一四〇万円の割合で九か月分、金一二六〇万円を支払うべき義務がある。

六以上の次第であるから、被告会社は原告会社に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、右合計金一八六〇万円および不法行為の日の後である昭和四八年八月六日から完済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告会社の本訴請求は、右判示の限度で正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴行法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(高橋正 市川頼明 田中壮太)

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